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働く場所の多様性が高まる中、郵便物の受け取りは、人によってはある種のストレス、企業にとっては、コスト増の要因ともいえる状況が出てきている。
クラウド郵便サービス「atena」(アテナ)は、その問題を解決する手段であり、スタートアップのatena株式会社と日本郵便株式会社は、その解決手段を世に広げるべく、2024年2月から法人向けのキャンペーンを実施する。
atenaキャンペーン申し込みはこちらから (2月1日開始)
https://www.post.japanpost.jp/campaign/sisho_cloud/
インタビュアー: 働く場所、働き方の多様性が進み、ビジネスパーソンが働く場所もレンタルオフィス・シェアオフィス、さらには法人登記だけのオフィスといったものが増えています。atenaのサービス内容は、時代背景を反映しているサービスにも見えますが、atenaの事業着想に至ったきっかけを教えてください。
atena株式会社 共同創業者代表取締役 白髭 直樹:
わたしは海外に数年間住んでいたことがあるのですが、当たり前ですが、海外にいると郵便物は受け取れません。そこで、実家にお願いして郵便物が届くと開封してもらい、その内容の写真をLINEで送ってもらっていました。
また、周囲にいる留学生や駐在者に話を聞いていると、同じような悩みを抱えていました。ほかにも、駐在者だけでなく、日本に住んでいるビジネスパーソンでも、出張中などでオフィスに行く機会がないと郵便物を受け取れず、同僚などに受け取りと開封をお願いしているケースがあることも分かりました。
この不便で手間のかかる状況をなんとかしたいと思って考えたのが、「atena」です。
インタビュアー: なるほど。ご自身の必要性と周囲へのヒアリングから出来たサービスだったわけですね。具体的なサービス内容を教えてください。
atena 白髭:
まず、利用者の方には「ポスト回収サービス」を使っていただくか、「専用住所」に郵送物が届くようにしていただきます。そこから先は、わたしたちが郵便物の内容確認、PDF化といった作業を行い、データをクラウド(サーバ)上に保管します。
利用者の方は、クラウドに保管されたデータをWeb上で確認することが出来ます。郵送物はまとめて定期的に転送しますが、急ぎで実物が必要な場合は日本郵便のレターパックで配送を指示することができます。
2020年5月11日に個人向けサービスとして公開しましたが、翌日には法人の方からの引き合いがあったことを機に、現在は法人向けサービスとして提供しています。法人でお使いの方からは、コロナ禍を機に変わった、働き方・オフィスの在り方への対応や郵便物管理を中心に、バックオフィス業務の効率化が可能になる点をご評価いただいています。もちろん、現在も個人でお使いの方もいます。
インタビュアー: atenaのサービスは、その特性上、日本郵便の郵便事業と切っても切り離せない関係にあると思いますが、両者が提携することになった経緯や、仲介役の日本郵政キャピタル株式会社の役割について教えてください。
日本郵便 郵便・物流事業企画部 専門役 酒井 忠寛:
日本郵政キャピタルのメンバーが、日本郵便の事業共創部にatenaのことを共有した結果、私の所属する部の担当執行役員が知ることとなり、日本郵政グループと親和性の高い面白い会社があるので、この会社と何かできないか検討してみてはどうかと話をもらったのがきっかけです。
日本郵政グループのJPビジョン2025や統合報告書をご覧いただくと、度々「共創プラットフォーム」という言葉が出てきます。まさに事業会社との共創に向けて、日本郵政グループ内で共創の力が働いた結果でもあります。
インタビュアー: 具体的にはどのような形で提携が進みましたか?
日本郵便 酒井:
日本郵政キャピタルを交えたオンラインでのディスカッションが起点でした。日本郵政キャピタルのメンバーから、提携の戦略策定等をサポートしてもらったことで、提携を進める時間は大幅に短縮され、質の高いものになったと感じています。
今も三者で週に1回のミーティングを実施して、情報交換とアクションアイテムについて討議しています。
atena 白髭:
私たちのatenaというクラウド郵便サービスは、日本郵政グループが150年を超えて培ってきたインフラを基盤としていますので、当社にとって提携に向かうことはありがたい流れでした。そして、より強固なパートナーシップを創出するために2022年12月に日本郵政キャピタルとの資本提携を行うに至りました。
定期ミーティングでは、日本郵便の酒井さんや、日本郵政キャピタルがサポートしていただけるため、何をやるにもスムーズに進み、大変助かっています。今回実施するキャンペーンもその中から出てきたものです。
インタビュアー: 提携の一環として、2024年の2月1日から東京都の新宿区、千代田区、中央区、港区、渋谷区と豊島区の一部で、法人向けキャンペーン実施すると聞きましたが、その狙いと内容を教えてください。
atena 白髭: 法人の方に向けて、月額基本料(通常5,000円〜)を3か月無料にするモニター・キャンペーンを実施します。もちろんユーザー増も狙いになりますが、モニターとなったユーザーの方の声をヒアリングさせていただき、atenaのサービスのさらなる利便性向上をしていきたいと考えています。
日本郵便 酒井:
atenaの利用者増に向けて、わたしたち日本郵便がプロモーション部分で何ができるか、アセットを棚卸ししたところ、ビジネス向け法人ポータルサイト「JP BusinessToolBox※」を活用できないかというアイデアが出ました。法人ポータルサイトは、料金後納をお使いいただいている法人のお客様を中心に、多くのユーザーにお使いいただいています。この法人ポータルサイトも活用しながら今回のキャンペーンを訴求する予定です。
また、日本郵便も同様に、モニターの方に普段不便と思われていることや、課題をお伺いすることで、今後のサービス改善や新サービスの種を発掘したいと考えています。
※「JP BusinessToolBox」https://www.post.japanpost.jp/bizpost/service/businesstoolbox/index.html
インタビュアー: atenaのサービスには、請求書・書類をPDF化、メールでお知らせ、お急ぎ配送などがありますが、今回のキャンペーンで体験して欲しいものはありますか?
atena 白髭:
シンプルに郵便物がデジタルで届く体験をしていただきたいです。外装から中身まで、現物に触ることなく業務を完結させることができます。
例えばハイブリッド型の出社体制をとっている会社では、郵便物が届く日が分かるため、業務を滞りなく進められる点で好評をいただいています。届いた郵便物は依頼から数時間でPDF化していますので、請求書などもスムーズに対応することができます。
また比較的規模の大きい会社では、総務の方への「あの郵便物届いていますか」といった社内問い合わせの工数削減も喜ばれています。atenaを使えば、各担当が各自Web上で確認できます。
一例ですが、月に1,000通ほどの請求書を受け取っていた法人では、経理の方が届いた封書を開封し、電子化、稟議、決裁を進めていたそうですが、早期決算への対応もあり、3人がかりで3日間、残業ありで業務を進めていたそうです。それがatena導入後、残業なしになったそうです。
インタビュアー: 最後にatenaの今後の可能性や拡張性についても教えてください。
atena 白髭:
電子化が進むと同時に郵便物の重要度が上がっていると感じています。それにともまって、早く受け取りたい、紛失したくないといった要望が強まると思います。そこにatenaの貢献ポイントがあると思います。
また、個人ユーザーの場合、ワーケーション(観光地などでの勤務)やアドレスホッパー(多拠点生活者)といった様式が増えるにつれ、atenaのサービスをお使いいだたく機会も増えるでしょう。
他には、海外に在住する方が、ご実家を回収先としてお使いいただいているケースがあります。このケースを拡張すれば「高齢者見守り」サービスとしても提供できる可能性もあると思います。
日本郵便 酒井:
米国では、朝、その日に配達される郵便物の外装の画像をEメールでお知らせする「インフォームドデリバリー」というサービスが広く使われています。日本郵便がこれを実現しようとすると、書状区分機の改修といった機械投資の面などで、まだまだハードルがある状況です。atenaのサービスを上手に展開すれば「インフォームドデリバリー」に近いサービスをお客様に提供することができると考えています。
デジタルとアナログの融合という点では、新しい企画の共創・創出も考えていきたいですね。
1985年に行われた国際科学技術博覧会(つくば万博)で「科学万博ポストカプセル2001」という企画がありました。万博開催期間中に引き受けた手紙を郵便局がお預かりし、21世紀の最初の日である2001年の元旦に配達するという企画です。16年の歳月を経て約300万通の手紙を配達しました。仮に今、この場で未来に向けてEメールを書いて受け取ったとしても、ポストカプセルほどの感動や感慨を得ることは難しいと思います。当時は、手書きの文字が手紙という物理的な形で過去からやってきたわけですから。
Z世代をはじめとしたデジタルネイティブの世代ほど、インスタントカメラやレコードといった物理的な情報伝達手段に価値を見出していると聞きます。デジタルネイティブの世代に向けてもatenaや日本郵便が何を提供できるか、それも考えていきたいですね。
MIT研究所の所長だったニコラス・ネグロポンテがビーイングデジタル「ビットの時代」を上梓してから早30年弱。アトム(物質)からビット(情報)への接合点・変換点の開発、進化はまだまだ終わっていないように思える。今後の両者の共創に、さらなる期待が膨らむインタビューであった。
atenaキャンペーン申し込みはこちらから (2月1日開始)
https://www.post.japanpost.jp/campaign/sisho_cloud/
文/株式会社キャリアインデックス執行役員 広報・IR担当 曽根 康司
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