Synergyシナジー

Synergy

JPデジタルがスタートアップ企業と仕掛ける日本郵政グループのDX

  • 株式会社AVILEN
    代表取締役CEO
    髙橋 光太郎(左)

    同社取締役・AI開発事業部長
    大川 遥平(右)
  • 株式会社JPデジタル
    代表取締役CEO
    飯田 恭久(中央)
まえがき

まえがき

2021年5月、日本郵政グループは「JPビジョン2025」を発表した。その中では、お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」として、「DXの推進」と「コアビジネスの充実強化による成長とビジネスポートフォリオの転換」が標榜されている。背景としては、日本郵政グループのみならず、日本社会全体を取り巻く環境変化である「少子高齢化の進展」「デジタル化の進展」があった。

その二か月後、日本郵政グループ内に一つの会社が誕生した。飯田恭久氏が率いる「株式会社JPデジタル」である。正確に言うと、誕生したのではなく飯田氏が、日本郵政グループのDXを推進すべく、進言して創設した会社である。

目線はスタートアップ企業 <br>~窓がない貸オフィスから始まったJPデジタル~

目線はスタートアップ企業
~窓がない貸オフィスから始まったJPデジタル~

インタビュアー: 「株式会社JPデジタル」を創設された経緯をお聞かせください。

JPD飯田社長: 私は昨年2021年に日本郵政グループのCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)として、参画しました。日本郵政グループのDX推進がミッションです。

ミッションを遂行すべく中に入ってみると、これが大変でした。まるで「異国の地の企業」に来たような感覚でした。階層型組織、前例踏襲主義。新しいメーカーからパソコン一つを買うのにさえ、決裁含めかなりの時間を要するので、他社から来た私のような人間の感覚からすると、大変な驚きがありました。しかし、考えてみると、それは不思議な話ではありません。郵便事業が始まったのは1871年。約150年にもなる歴史がありますから、仕組みやオペレーション、蓄積してきたものが違います。

しかし、そのまま受け入れているだけは、前に進みません。私は、日本郵政グループのトップである増田寛也社長に、グループ内に「JPデジタル」を作らせてくださいと、お願いしました。ガバナンスを担保しつつ、スピード感をもってDXを進めるのが、その狙いです。増田社長は、すぐに理解を示してくれ、創設に漕ぎつけました。

JPデジタルの創設にあたっては、非言語的な面も工夫しました。まず、最初にオフィスに選んだのは、意味を込めて「窓がない貸オフィス」にしました。

「窓がある広いオフィスに移るためにがんばる」。メンバーがスタートアップの感覚を持つための物理的な工夫です。おかげさまで、今は人数も増え、2022年7月から、現在の「窓のある広いオフィス」に引っ越しています。

また、随分とカジュアル化が進んだとはいえ、日本郵政グループ本体には勤務時のドレスコードがあります。JPデジタルでは、ドレスコードをさらに緩和し、いわゆるインターネット・ベンチャーのような服装でみんなが働いています。これもJPデジタルが、DX進める意気込みを周囲に伝えるための工夫です。

事業連携を普通の民間企業のスピード感で実現<br> ~DX・AI戦略立案から人材育成までサポートするAVILENとの事業連携に至るまで~

事業連携を普通の民間企業のスピード感で実現
~DX・AI戦略立案から人材育成までサポートするAVILENとの事業連携に至るまで~

インタビュアー: 2022年6月には、上場企業を中心に多くの顧客を持ち、DX・AI戦略立案からDX・AI人材の育成までサポートする株式会社AVILEN(アヴィレン)が、JPデジタルに事業連携することになりました。ここでの狙いは何でしょうか?

JPⅮ飯田社長: 日本郵政グループには40万人のメンバーがいます。今は民営化されていますが、昔は郵政省という国の機関でした。全国民がお客さまである社会インフラでもあります。一方、世の中の変化に対応していくためには、日本郵政グループ社内のマインドセットをアップデートしなければならないと私は感じていました。そして、DXを進めるにあたってのメッセージを、人材教育を通じて、しっかり伝える必要があると思ったわけです。

また、スピード感をもってDXを進めるには、自助努力に加え、外部パートナーとの連携も必須だと考えていました。そんな中、日本郵政グループのCVCである「日本郵政キャピタル」からAVILENとの事業連携の話が出てきました。実際にAVILENのメンバーと会ってみると、前向きで、何より目が輝いている。これまでグローバルで多くの会社のアントレプレナーとも会ってきたが、これは本物だと感じ、事業連携したいと思いました。

そこで、日本郵政キャピタルと連携して、出資に向けた話を進めました。JPデジタルや日本郵政キャピタルのメンバーは日本郵政グループの慣習や手順への理解が深く、加えて、JPデジタル、AVILENが実現したいことのハンドリングを本当に上手く担ってくれました。結果、数か月で話がまとまり、今回の事業連携が実現しています。

仮に、これが日本郵政グループ本体の案件だったら1年以上はかかっていたかも知れません。JPデジタルを創設した狙いである機動力がここでも活かされました。手前味噌ですが、いわゆる普通の民間企業のスピード感で実現できたと思います。

巨大グループとスタートアップの連携 <br>~AVILENが感じた、「全国民がお客さま」のワクワク感~

巨大グループとスタートアップの連携
~AVILENが感じた、「全国民がお客さま」のワクワク感~

インタビュアー: AVILENとして、巨大企業、日本郵政グループの一員であるJPデジタルとの事業連携の話を聞いたとき、率直な印象はいかがでしたか?

AVILEN髙橋社長: 日本郵政グループといえば、「日本郵便」の郵便事業がありますが、郵便事業が担う物流(ロジスティクス)は、デジタル、DXと非常に相性がいいと常々感じていました。そこに今回のお話をいただき、ワクワクしたというのが、率直な印象です。

同時に、スタートアップであるAVILENが、全国民がお客さまである日本郵政グループの支援に参画できるということは、非常にやりがいを感じました。

また、心配していたスピード感も杞憂でした。JPデジタルとの事業連携は想像以上のスピードで話が進み、現在進行形として、今も動いています。

AVILEN大川取締役: 私も素直に大きな可能性を感じました。DXというとシステム導入やツールの話が先行しがちですが、人と文化の変革が肝要だと認識しています。

お話をいただいた当初は、正直、固い、カチっとした空気感がありましたが、会話を続けていくうちに互いの信頼感が醸成されて、これは変えていけると思いました。また、日本郵政グループの方はコミュニケーション全般が丁寧で、我々のようなスタートアップにも対等に接してくれたことも、とても嬉しかったです。

今回の提携、教育コンテンツを通して伝えたいこと<br> ~顧客視点。顧客にとって使いやすいサービスであるかどうかが全て~

今回の提携、教育コンテンツを通して伝えたいこと
~顧客視点。顧客にとって使いやすいサービスであるかどうかが全て~

インタビュアー: AVILENとJPデジタルが制作した動画教育コンテンツの一部を拝見しましたが、飯田社長もDX概論の担当されていました。取り組みへの熱意のみならず、内容も「JPビジョン2025」の浸透から丁寧に取り組まれている印象がありました。伝えたいこと、心がけていたことはありますか?

JPⅮ飯田社長: 冒頭でも申し上げましたが、私は日本郵政グループに参画して最初に感じたのは「異国の地の企業」に来た感覚でした。それは、良い意味、悪い意味、両方を含めてです。揶揄しているわけではありません。全国民がお客さまであるが故、安定したサービスを提供しなければいけません。

日本郵政グループは「日本郵便」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」を通してサービスを提供していますが、2021 年度郵便物等総物数は191億9,273万通あります。ゆうちょ銀行の総貯金残高は合計で約193兆円、かんぽ生命の保有契約件数(個人)は約2,283万件あります。

DXの手法の一部に関連して補足すると、一般的には仕様や設計を100%決めずに、細かい修正を繰り返して製品やサービスのクオリティを上げる「アジャイル型開発」や「PDCAサイクル」が取り入れられていますが、日本郵政グループで、これらをいきなり取り入れると、現場の混乱が生じた際、お客さまである全国民に影響しかねません。

一方で、製品やサービスのクオリティを上げることは、企業としての大命題でもあります。その起点として、まず日本郵政グループに改めて伝えたいのは「お客さま視点を持つ」、ここからと考えています。お客さまにとって本当に使いやすいサービスであるかどうか、そこに立ち返りたい。

そして、「日本郵便」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」のサービスを提供する窓口の一つである郵便局は、全国に2万4千か所あります。これは、いまだコンビニエンスストアの事業社一つが持つ店舗数よりも多いです。これほどのお客さま接点を持つサービス事業提供者は、稀有、且つ重要な責任を担っていると認識しています。だからこそ、お客さま視点を持って、使いやすいサービスを提供し、体験価値を向上し、顧客満足度(カスタマー・サティスファクション)を上げる。ここが取り組みのフォーカスになります。

また、繰り返しになりますが、日本郵政グループの出自は郵政省であり、働いているメンバーには、元国家公務員もいます。そのDNA・矜持も生かして、顧客満足度を上げていきたいですね。

学びの機会・気づきの機会の創出<br> ~40万人の「変えたい」マグマを掘り起こす~

学びの機会・気づきの機会の創出
~40万人の「変えたい」マグマを掘り起こす~

インタビュアー: 飯田社長に教育動画コンテンツについてお伺いします。制作にあたって、印象深い出来事はありましたか?

JPⅮ飯田社長: いざコンテンツ制作を開始すると、日本郵政グループ内に「変えたい人」「変わりたい人」が、沢山いることが分かりました。みな嬉しそうに協力してくれます。JPデジタルが進めるDXの支援は、日本郵政グループ40万人の「パワーの解放」でもあることに気づきました。

私はJPデジタルを通じてDXの旗振りをしていますが、日本郵政グループの全員がDXのスペシャリストになる必要があるとは考えていません。人には、向き・不向きがあります。サービスを作ることが得意な人もいれば、分析が得意な人もいるでしょう。そこに適切な学びの場、深掘りの場を提供したい。そう考えています。

そして、共通認識のベースとして「お客さま視点を持つ」こと。これからも、そこに、こだわっていきたいです。

仕掛けたDXのこれから <br>~内部変革と一緒に外からの見え方も変えたい~

仕掛けたDXのこれから
~内部変革と一緒に外からの見え方も変えたい~

インタビュアー: 最後に、お二人に今後の展望、これからについてお伺いします。

AVILEN髙橋社長: さきほど「日本郵便」の郵便事業の物流(ロジスティクス)はデジタルと相性がいいと申し上げましたが、そのデジタル領域においては、我々の手がけているAI事業含め、技術やそれに伴う外部環境変化のスピードが指数関数的に速くなっていると認識しています。

外の変化に対応していくためには以前にも増して、教育の継続、それに耐えうる運用体制の構築が重要だと認識しています。日本郵政グループの「日本郵便」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」のお客さまに対して、長期的に体験価値の向上を提供し、顧客満足度を上げる仕組みをデジタル組織開発、データ活用・AI開発といった点から今後も支援していきたいですね。

JPⅮ飯田社長: 日本郵政グループの素晴らしいところは、意見を尊重してくれる点があると思っています。今回の事業連携は、日本郵政キャピタルの投資委員会を含め、関係者の方々がJPデジタルの意見を尊重していただいき、すぐにシナジーを生むことが出来ました。JPデジタルの本気度が、グループ内にさらに伝播して「変えたい人」「変わりたい人」が、もっと増えてくれるように活動を続けていきます。

第一号の提携であるAVILENとの成功を嚆矢として、内部の変革のみならず、外部からの見え方も変えたいですね。スタートアップ・コミュニティーからエンタープライズ企業まで、JPデジタルとの連携が、ファーストチョイスになるように、仕掛けを続けていきます。

あとがき

あとがき

このインタビューの帰り際、飯田社長は、「窓のある広いオフィス」を案内してくれた。固定の座席がほとんどない室内は「集中ゾーン」「討議ゾーン」に分かれており、あえて壁を作らず簡素なカーテンで仕切られている。綺麗なオフィスだが、飯田社長が言うように、よく見るとあまりコストがかかっていない。組織の成長合わせ柔軟にレイアウトを設計できるようになっている。多くの事業所・郵便局を持つ日本郵政グループには、約150名の一級建築士が在籍しているそうだ。飯田社長は、その中から20代の若手の建築士に依頼して、オフィスの設計を依頼した。任されたほうは驚いたと思うが、やりがいとともに「変えていく」という気概を感じたに違いにない。グループ全体を巻き込む力。JPデジタルの今後から目を離せないと感じた。

JPデジタルがスタートアップ企業と仕掛ける日本郵政グループのDX

Next