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日本郵便の事業といえば、誰もが思い出すのが「郵便」や「ゆうパック」といった長い歴史を誇る『配送』がある。その『配送』を『物流』に解釈し直し、バリューチェーンの構築を進めているのが、2014年に産声を上げた、日本郵便のロジスティクス事業部である。そのロジスティクス事業部は、日本郵便の持つ高品質な配送ネットワークという強みを生かし、通販会社、メーカー、スタートアップ等の荷主に物流ソリューションを提供し、業容を拡大している。今回は、そのキーパーソンである五味執行役員にインタビューを行った。
インタビュアー: 日本郵政株式会社といえば、まず「郵便」が浮かぶ人が多いと思いますが、その中で「ロジスティクス事業部」は、どのような形で生まれたのでしょうか?
日本郵便株式会社 ロジスティクス事業部 執行役員 五味 儀裕(以下、日本郵便 五味):
まず、大きなところとして、2007年の郵政民営化を起点とした日本郵政グループ全体での構造変革があります。その後、2014年にロジスティクス事業部が出来ました。この年がいわばロジスティクス事業部の事業元年です。
日本郵便と聞くと、「郵便」や「ゆうパック」といった『配送』をイメージされる方も多いと思いますが、ロジスティクス事業部では、『ロジスティクス』の文字通り、配送の前工程である商品の保管、ピッキング、流通加工等といった部分まで拡げてワンストップでサービスを提供しています。
日本郵便は長い時間をかけて培ってきた事業経験により、『配送』についてのお客様ニーズを十分に把握できる体制にありましたから、最終送達者から上流に遡って、物流全体のニーズ、課題にアプローチしてきました。
インタビュアー: 課題解決型のアプローチで業容を拡げていったことが理解できました。現在の「ロジスティクス事業部」のミッションについて教えてください。
日本郵便 五味:
ロジスティクス事業部は「荷物を作る」ことがミッションです。
至極当然の流れですが、荷物を作れば、配送のニーズが生まれます。その荷物の作り方ですが、一つとして、3PL(サードパーティーロジスティックス:物流を第三者に委託すること)を展開し、お客様からお預かりした商品の在庫管理から発送までを含めた業務を展開しています。
インタビュアー: 3PLが本格的に日本に普及しはじめたのは1990年代、普及が加速したのがEC(電子商取引)の発展した2000年代だと記憶しています。すでに30年近く経過していますが、その中で、日本郵便が提供する3PLの違い、強みとは何でしょうか?
日本郵便 五味:
日本郵政グループは、2021年に創業150年を迎えました。150年の間に作られた全国の郵便局ネットワークが存在することは物流の担い手として大きな強みです。物流の最終段階はお客さまへの配送・受け渡し、いわゆる「ラストワンマイル」になりますが、全国津々浦々をカバーする配送・受け渡しの機能を持つことは一朝一夕にはできません。
ECが発展した背景には、通信回線のブロードバンド化、スマートフォンの登場、そしてコロナ禍による生活様式の変容があったと思いますが、日本郵便が個人に配送する荷物も半分以上がECの荷物になりました。多頻度、小口化、非対面といった配送ニーズが高まる中、日本郵便が150年の歴史の中で構築した物流ネットワーク・配送ノウハウは、手紙から荷物に変わっていく中でも新たな強みを発揮できると思います。
インタビュアー: 150年の歴史を持つ物流ネットワークがある一方、3PL事業は2014年開始と競合他社と比べて後発です。後発として競争力を発揮できる点はどこにあるとお考えですか?
日本郵便 五味: 日本郵便は、全国25か所に3PL専用の物流ソリューションセンター(LSC:Logistics Solution Center)を持っていますが、直近に稼働を開始したLSCでは、それまでの経験を踏まえ後発である利点を生かし、最新の技術・手法を取り入れています。
インタビュアー: なるほど、開発途上国が、電話線を敷設することなく、携帯電話回線を使って情報ネットワークを発展させることなどをリープフロッグ(蛙飛び)と言いますが、具体的にはどのような内容でしょうか?
日本郵便 五味:
例えば、埼玉県和光市にある大規模ターミナル「東京北部郵便局」では最上階に「東京北部LSC」を置いています。東京北部LSCでは、トラックで納品する際に上層階から搬入します。ピッキングしてから配送するまでの動力に重力も活用する仕掛けです。現在ではよく見かける設備様式ですが、大規模な投資が必要となるLSCにおいて最新の設備構成を取り入れることが出来ることは大きなメリットです。
また、倉庫内の機械化・自動化もこの数十年で大きく発展しました。ピッキング・パッキングといったECに必要とされる荷捌きを前提とした倉庫内の設計を出来ることも大きいですね。
インタビュアー: 日本郵便の3PLがECと相性がいい点は理解できました。ECと一口に言っても、取扱商材や事業規模は多岐に渡ります。相性がいい商材や規模はありますか?
日本郵便 五味:
繰り返しになりますが、日本郵便はラストワンマイルの配送まで含めたところに強みがありますので、大型商材より小型商材、ToB(企業に届ける)よりToC型(消費者に届ける)のほうが、相性がいいと思っています。
ポテトチップスなどで有名な総合スナックメーカーの湖池屋(コイケヤ)のオンライン通販の他、家電・美容商品のサブスクリプションサービスを展開するスタートアップである株式会社アリススタイル(以下アリススタイル)の物流も手伝いをさせていただいています。
湖池屋との取り組みでは、日本のLSCの強みの一つである保管・発送機能の一体化によるリードタイムの短さが生きていると思います。喩えていうなら、駅直結型のタワーマンションに在庫が保管されていると言えばいいでしょうか。
アリススタイルとの取り組みでは、サブスクリプションモデル特有の往路に加えて復路の物流を持つ点、そしてLSC内にリファービッシュ(整備・修繕)の機能も加えることよって、サービスを運営する上での機能要求にお応えしています。
大手企業からスタートアップまで、わたしたちの提供するリードタイムや機能要求の点を評価いただいて日本郵便をパートナーに選んでいただくことは非常に喜ばしく、これからも磨き上げていきたいと思っています。
インタビュアー: 2014年にロジスティクス事業部が立ち上がってから10年が立ちましたが、現状の課題には何があるでしょうか?
日本郵便 五味:
オペレーション面では、物流の2024年問題(トラックドライバーの時間外労働時間が規制されることに伴う輸送力の低下)に加えて、LSC含めた施設内の労働力不足にも対応していかなければなりません。自動化・省力化の推進は勿論のことながら、日本郵便のLSCで働きたいと思っていただける、より良い環境の提供も推し進めています。
営業面では、いまよりも高いレベルで顧客の要求、課題、条件等を的確に把握し、日本郵便ならではのLSCの営業・提案をできるようにしたいですね。そのための人材育成、提案型営業の進化といったものを進めていきたいです。
さらに上記の営業リードの獲得増加に加えて、アリススタイルとの協業の架け橋となった日本郵政キャピタルとの連携を強化して、スタートアップとの協業をもっと増やし、営業活動とアライアンス活動の両面で事業を推進したいと考えています。
インタビュアー: 最後にロジスティクス事業部が、この先、目指すところについて教えてください。
日本郵便 五味:
「物流をビジネスのボトルネックにしない」だと思っています。物流が原因で会社の成長ができないといったパートナー企業を無くしたい、物流の課題を徹底的に解決したいですね。
さきのアリススタイルとの協業においても、LSCをご提供することによって物理的な場所の確保から物流オペレーション全体の支援をさせていただきました。
これからも情報化社会は進化し、ECの割合は増えていくでしょう。メーカー・卸の商環境も変わってきていると認識しています。多品種・少量・受注後生産・DtoC(DirECt to Consumer)とった流れに加え、いままでの無料配送からECで販売する商品に物流費を乗せる流れも出てきています。
物流で新たな課題が出てくるパートナー企業は今よりも増えるでしょう。技術面でもドローンやロボティックスによる配送、ルーティング(配送経路)やナビゲーションのDX化など、進化が見込める技術はたくさんあります。
ロジスティクス事業部は物流を通じて日本郵便の成長エンジンの一部として、パートナー企業と一緒に、顧客提供価値を共創していきたいと思っています。
経営環境の分析手法に「PEST分析」、政治(Politics)、経済(EConomy)、社会(Society)、技術(TEChnology)というのがある。ロジスティクス事業部の誕生と発展を考えると、郵政民営化という政治判断を起点に、インターネットやスマートフォンといった情報通信技術の発展に伴う社会・生活様式の変化、そして、経済活動の変容といった繋がりが見えてくる。「配送」を「物流」に置き換えるという日本郵便の大きな事業革新の一翼を担う中、「物流をビジネスのボトルネックにしない」という言葉が強く印象に残った。
文/株式会社キャリアインデックス
執行役員 広報・IR担当 曽根 康司
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