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ここ10年、街で見かけることが多くなったものの一つに「トランクルーム」がある。そのトランクルームの事業を手掛けるキープレーヤーが、2015年に東京証券取引所に上場した株式会社パルマ(東証グロース上場:証券コード3461)である。同社の決算説明資料によると2020年には約735億だった市場規模は、2028年には1,000億円を超える市場規模になるとの見込みが出ている。一方、日本郵政グループでは、日本郵政キャピタルを通じて2018年パルマ社に出資を行った。そのパルマ社と日本郵政グループの持つアセットのとの融合を図り、事業シナジー創出に取り組んでいるのが、日本郵便事業共創部である。
インタビュアー: 日本郵政グループの日本郵便株式会社事業共創部は、2023年にトランクルーム事業を手掛けるパルマ社と福岡県の八幡西郵便局でトランクルーム事業の実証実験を開始しています。どのような経緯で、はじまったのでしょうか?
日本郵便株式会社 事業共創部 専門役 西田 雅文(以下、日本郵便 西田):
日本郵政グループには多くの拠点がありますが、時代の流れとともに、その拠点が担当する機能も変化しています。取扱い物数の増減や、業務の効率化による他拠点との統合など、様々な理由によって、拠点の機能が変わってきました。
各拠点の機能が変わることによって、その拠点を他の業務にすぐ転用できればいいのですが、そう簡単にはいきません。拠点の機能と一口に言っても、金融窓口機能から倉庫機能まで、種々の機能があり、転用が出来ないケースや、拠点の中の一部だけ転用したい場合などもあります。
福岡県の八幡西郵便局では、郵便配達が他の郵便局へ集約されたことにより、低利用スペースが出来ました。私自身、ロジスティクス畑で仕事してきたこともあり、拠点を営業倉庫にするなど、いわゆる「ロジスティクス」事業の拠点への転用を担当してきました。ロジスティクス業務には「人」が必要であり、場合によっては、立ち上がりに時間がかかることを理解していたため、八幡西郵便局では他の選択肢も検討していました。
その中で浮上してきたのが、低利用スペースをトランクルームに転用するというアイデアでした。
インタビュアー: 具体的な取り組みは、どのように進んだのでしょうか?
日本郵便 西田: 私たちは物流には明るい一方、トランクルームに関しては素人同然です。トランクルーム事業を開始するには、ノウハウを持つパートナーが必要であると考えました。日本郵便は、主体的な事業参入を前提としたうえで、場所の準備と、周辺地域へのチラシ配布などの販促・マーケティング機能に集中すればいいのではないかと考えたわけです。マーケティングの4P理論になぞれば、Product(商品・サービス)は委託するパートナー企業、残りのPrice(価格)・Place(場所)・Promotion(販促)は日本郵便といったところでしょうか。パートナー企業を選ぶところからはじまりました。
インタビュアー: 今回、パルマ社と一緒に事業を進めることになりましたが、事業共創部とパルマ社と出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
日本郵便 西田: トランクルームのパートナーを探しているところ、パルマ社の存在を知り、日本郵政キャピタルに紹介を依頼しました。日本郵政キャピタルでは、既にパルマ社に出資をしていましたので、日本郵政グループとして、まずはパルマ社とシナジーを出すべきというのは自然な流れでした。当時パルマ社の担当であり、パルマ社の事業内容を熟知している社員がチームメンバーになる等、偶然が重なり、気が付けば事業を進めていく役者が揃っていました。
インタビュアー:
パルマ社の具体的な業務内容は、どのようなものでしょうか?
株式会社パルマ 代表取締役社長 木村 純一(以下、パルマ 木村):
わたしたちはトランクルーム事業を展開していますが、具体的には既に施設をお持ちの顧客に対してトランクルーム事業の展開を支援する「ビジネスソリューション」と、施設の建築・開発からサポートする「ターンキーソリューション」があります。
今回の日本郵政グループとの取り組みは、郵便局の低利用スペースに対して、トランクルームの施設開発を支援する「ターンキーソリューション」とトランクルーム事業を支援する「ビジネスソリューション」を提供することで一気通貫のサービス提供を行いました。トランクルーム運営のノウハウとして、施設開発から運営管理・収納代行、カスタマーサービスまでワンストップでやっています。八幡西郵便局との取り組みは2023年の10月から検討し、2024年3月から稼働しました。
インタビュアー: トランクルーム事業者にとって、日本郵政グループの低地用スペースが活用できる利点には、どのようなものがありますか?
パルマ 木村:
まず、郵便局は地域のインフラとして、人と人をつなぐ機能があるところ大きな魅力です。そして、大規模郵便局は基本的に地域の重要な場所にあり、アクセスがいい場合がほとんどです。そのため、場所の代替が効きにくく、競合は出てきにくい環境にあります。そして、何より、大規模郵便局があるということは、周辺の居住者が多いということも意味します。これはトランクルーム事業者によって、とても大きなメリットです。
また、さきほども出ましたが、日本郵便が持つ販促機能を活用できる点も大きいです。八幡西郵便局のトランクルームの商圏は半径4キロ程度と見ていますが、その半径4キロの全戸にチラシを配布できたのは、日本郵便だからこそでしょう。
インタビュアー: 日本郵便から見て低利用スペースが活用できるメリットは、他にもありますか?
日本郵便 西田:
郵便局というのは一般的に場所の認知度が高く、「~~郵便局」や「あそこの郵便局」といった言葉で場所が伝わると思います。また、手前味噌ながら、150年超の歴史を持つということで、安心感を持っているお客様も多いと思います。トランクルーム事業者は、上場会社から個人事業主まであり、事業オーナーが断片化しています。トランクルームに日本郵便のブランドを冠するということは一定の意味を持つと考えています。
また、郵便・物流ネットワークは規格化・効率化が進んでいます。規格化・効率化が進むと設備の空きが出てくるわけです。その空きが土地や建物であれば、不動産として売却できますが、建物があって、少しでも残すべき機能があれば、売却は出来ません。その際に空きスペースを利活用できるのは大きなメリットです。
インタビュアー: 近未来の話も含め、トランクルームの発展型には、どのようなものを考えていますか?
日本郵便 西田:
構想の前の段階のものも含めていうと、郵便局内にトランクルームがあるという点を生かして、「ゆうパック」を局留めで送ると、そのままトランクルームに収納される仕組みや、逆にトランクルームから、ゆうパックで出荷するようなことが出来たらいいですね。出荷の場合は個人売買や小規模のEC倉庫といった機能を持つイメージです。
一般的にトランクルームには、いわゆる季節モノが収納されるケースが多いのですが、趣味や嗜好が多様化するにつれ、家族が家の中で邪魔だと思っているモノや、これからの高齢化社会も踏まえ、年齢を重ねても捨てられないモノの収納といった役割も、増えてくると思っています。
インタビュアー: パルマ社から見たトランクルームの事業の拡がりはどうでしょうか?
パルマ 木村:
わたしたちのトランクルーム事業はオペレーションに特化しているので、特定のブランド名がありません。八幡西のケースでも、お客様は郵便局のトランクルーム事業だと認識していただいていると思います。既存のブランドや屋号を生かしたビジネスをしたいビジネスパートナーとはもっとパートナーシップを拡げていけると思います。
郵便局でいえば、建物に限らず、駐車場も活用できると思っています。駐車場にコンテナを置いて倉庫や収納にするわけです。さらにコンテナを日本郵便のアイコンにもなっている赤で塗れば、日本郵便のサービスであると一目で分かるでしょう。さらにコンテナの側面を看板や広告にすることもできます。
もう少しマクロの視点で見ると、日本における1世帯あたりの居住スペースは縮小傾向にあり、不動産価格も上がっています。トランクルームを活用する理由は増えていくと思っています。
日本郵便 西田: 日本郵政グループの低利用スペースは都市部~地方部に存在し、広さも様々です。網羅的に低利用スペースが活用できるように、地域住民の方の利便性や経済活動に資するサービスを意識しながらメニューの開発をおこなってまいります。
インタビュアー: 今後、一緒に共創に取り組みたい業界やスタートアップはありますか?また、日本郵政キャピタルの出資先で興味ある事業者はいますか?
日本郵便 西田: 詳細は申し上げられませんが、日本郵政キャピタルとは密に連携をしておりますので、日本郵政キャピタルの出資先との取り組みや検討は進んでいます。
パルマ 木村: 当社はトランクルーム事業を展開していますが、因数分解するとBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)として、ノウハウを提供している会社でもあります。このBPOの仕組みを他事業にも横展開したいとも思っています。コールセンターや民泊運営、そういったところにも商機があると思っていますので、それらに関連した業界やスタートアップとの連携は加速していきたいですね。
事業共創部がパルマ社と出会ったきっかけを聞いて、真っ先に思い出したのが、クランボルツ教授による「計画的偶発性理論」だった。言い換えれば、活動量が機会を生むといことにもなるが、日本郵政グループ内での活動量の増加を意識した人・事業の有機的な動きが今回の共創につながっていったのだと思った。日本郵政キャピタルの丸田社長が示した、日本郵政グループの事業アセットの活用、スタートアップ成長支援といった道筋が、確実になぞられていると実感したインタビューだった。
文/株式会社ディスラプターズ 執行役員 曽根 康司
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