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2024年問題、EV化、DX化、激変の物流業界にチャレンジするスタートアップ「ハコベル」と「日本郵便メンテナンス」の取り組み

  • (左)日本郵便メンテナンス株式会社
     車両保守管理部 担当部長
     山本 力三(やまもと りきぞう)
  • (右)ハコベル株式会社
     執行役員 事業統括本部 事業企画部長
     北村 尚夫(きたむら ひさお)
まえがき

まえがき

2024年問題、二酸化炭素排出削減、輸送車両のEV化など、物流を取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。そして、オペレーション面では、配車やドライバーの手配、荷下ろし場所(バース)管理などのDX化が進んでいる。そのDX化を支援するハコベルと、日本郵政グループが使用している二輪8万台以上、四輪4万台以上という膨大な車両の保守を支援している日本郵便メンテナンスが手を組んだのは2024年の7月。今回は、規制と革新の中にいる両者のキーパーソンにインタビューした。

日本郵政グループ車両のEV化を支援する日本郵便メンテナンス株式会社

日本郵政グループ車両のEV化を支援する日本郵便メンテナンス株式会社

インタビュアー: 一般の方には「日本郵便メンテナンス」という会社は聞き慣れないと思いますが、具体的な事業内容をお聞かせください。

日本郵便メンテナンス株式会社 車両保守管理部 担当部長 山本 力三(以下、日本郵便メンテナンス 山本): 日本郵政グループが掲げる「お客さまと地域を支える『共創プラットフォーム』の実現」を裏方として支援し、主に郵便・物流基盤の車両・機器の保守(メンテナンス)と関連商品の開発を行っている日本郵便の100%子会社です。

郵便・物流基盤と言うと分かりにくいかも知れませんが、みなさんも街で良く目にする郵便配達の二輪、四輪の保守管理を行っています。また、日本郵便の車両にとどまらず、同じ日本郵政グループのゆうちょ銀行、かんぽ生命などの車両も対象としています。
長距離輸送トラックなどについては全国の直営工場でメンテナンスしています。

車両以外では、物流ターミナルなどで荷役や仕分け作業をサポートするマテハン機器(マテリアル・ハンドリング機器)のメンテナンスも行っています。マテハン機器は様々なメーカーのものがありますが、メーカーを問わずメンテナンスできるのが当社の強みであり、技術者をメーカーに派遣するなどして技術取得・サービス拡大に努めています。

当社では、メンテナンス以外にも商品・サービスの開発・提供を行っています。郵便配達の二輪の後部に設置されているボックスの開発、EVの導入に必要な配備拠点の電源工事など、日本郵政グループ各社の業務を裏方として支援しています。また、日本郵政グループ外に対しては、ガソリンスタンドのプライスサイン、LED光源を活用した植物育成システムなど多種多様な商品・サービスを開発・提供しており、日本郵政グループで培った技術力・ネットワークを生かしたソリューションの提供に努めています。

インタビュアー: 事業は多岐に展開していると思いますが、独特なビジネスモデルや、日本郵政グループだからこそ実現できているビジネスはありますか?

日本郵便メンテナンス 山本: ハコベルに提供している「車両保守管理サービス」が該当するかと思います。
当社では日本郵政グループ各社が全国の拠点で使用している膨大な車両を効率的に修理・点検整備するためのソリューションとして一般的にはあまり見られないビジネスモデルである「車両保守管理事業」をグループ内外に展開しています。
膨大な車両を扱い、保守することに関連する管理部門を含む関係者の負担は相当に大きいもので、これを解消するために、全国約5,000箇所の提携整備工場(車両保守店)との契約から決済に至るまでの各種事務の代行、ヘルプデスクの設置などのソリューションを提供しています。
最近ではEV化に伴い、これに対応できるエンジニアの必要性が高まっていますが、メンテナンスに必要な低圧電気取扱業務特別教育を主催するなど教育面もサポートしています。
また、車両配備拠点・保守店の各種事務に独自システムを使い、当社で保守データを保持し、保守最適化のための分析・提案も実施しています。特にEVを含む二輪を大量に保守管理している企業はなかなかありませんので、そこに蓄積された保守データなどのナレッジは大きな資産とも言えます。台数が多いということは、スケールの大きさになりますので、固定費率を低くする効果もあります。
これらは日本郵政グループだからこそ実現できたビジネスモデルであり、当社には車両のメンテナンスを契約から決済まで一貫して行える強みがあります。
特に日本郵政グループで多く使用している二輪の保守管理は、私共の得意とする分野ですので、日本郵政グループ外でも当社を是非活用していただけたらと思います。

2024年問題にDXで正面から対峙するハコベル

2024年問題にDXで正面から対峙するハコベル

インタビュアー: ハコベル。名前からモノを運ぶサービスを提供する会社であることは想起できますが、そのハコベルが出来た経緯・事業内容について教えてください。

ハコベル株式会社 事業企画部 部長 北村 尚夫(以下、ハコベル 北村): 私たちは、印刷オンデマンド・シェアリング のラクスル(東証プライム:4384)の一事業部として、2015年に誕生しました。ラクスルは、印刷業界の産業構造を仕組みやテクノロジーで効率化してきた会社ですが、ハコベルでは、そのカルチャーを受け継いで、物流業界の産業構造を仕組みやテクノロジーで効率化していくことを目指しています。もう少し大きな視点でいうと、多重下請け構造やそこに存在する非効率性の解消を目指している会社です。

組織としては、ラクスルの他、セイノーホールディングス株式会社より過半数のご出資を受けて2022年に分社化、独立。2023年10月には物流大手の山九株式会社、福山通運株式会社、日本ロジテム株式会社にご出資いただきました。そして、今年(2024年)の初頭に日本郵政キャピタルからのご出資を受けています。(敬称略)

ハコベルの事業内容は主に2つあり、荷主様とドライバー・運送会社様をデジタルにマッチングする「ハコベル運送手配」、並びに物流DXというSaaSのプロダクト群です。物流DXは、ハコベル運送手配から派生したサービスであり、配車業務を効率化するシステムである配車管理や、配車計画・動態管理といった、旧来のオペレーションに対してデジタル化を支援していくサービス等を総称しています。なお、2024年10月現在、車両登録台数約62,000台、登録運送会社数約20,000社ということで多くのドライバー・運送会社様にご愛顧いただいていております。

そして、この11月からは、荷下ろし場所(バース)でのトラック予約/受付サービスの「トラック簿」を事業承継し、当社にてサービスを開始しております。「トラック簿」はバース管理システムで、業界2位の導入拠点数を誇り、27万人以上のトラックドライバーにご利用いただいているSaaSプロダクトです。 

インタビュアー: 北村さんはクラウド環境を提供するAWS(アマソン・ウエブサービス)のご出身だと伺いましたが、ハコベルのビジネスに関して特別な想いはありますか?

ハコベル 北村: Amazonのリテール部門、AWSにいた経験から、テクノロジーによって様々なオペレーションが自動化されてきた現場や、クラウドサービスを活用されて素晴らしいプロダクトや業務効率化をされるお客様を見てきたので、そのインパクトを物流業界でも再現したいという想いがあります。

さきほどご紹介したトラック予約/受付の「トラック簿」はテクノロジーによって課題解決を目指す非常に分かり易いプロダクトです。バース管理というと一般の方はイメージが湧きにくいかも知れませんが、大規模な飲食チェーン店での席待ち予約システムのドライバー版だと思っていただければいいと思います。席の代わりに荷下ろしの場所を予め予約するようなイメージです。

倉庫地域などでは、荷卸しのために路上で待機する車両(荷待ち)を見かけることがあると思いますが、荷待ちの時間も2024年問題、ドライバーの時間外労働の上限規制、960時間にダイレクトに関係しています。その荷待ち時間・荷役時間削減は政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」でも最優先事項に位置付けられています。「トラック簿」では、それらの課題を解決していますし、事業承継によって更に多くのお客様にご導入いただけるよう我々も努力していきたいですね。

日本郵便メンテナンスとハコベルが共創するDX

日本郵便メンテナンスとハコベルが共創するDX

インタビュアー: 物流のど真ん中にいるとも言える日本郵政メンテナンスとハコベルが出会ったわけですが、両者が共創して取り組んでいることについて教えてください。

日本郵便メンテナンス 山本: 当社独自の車両保守管理システムである「郵政車両保守支援システム(VMW:Vehicle Maintenance Web System)」について、関係者の要望を伺いながらシステム改修に取り組んでいます。
現在、VMWを日本郵政グループ各社の車両配備拠点・全国の車両保守店に導入しており、当社で一元管理しています。このVMWは発注から決済に至るまでの各種事務をペーパーレス、リアルタイムで効率的に処理することが可能で、これを日本郵政グループ以外にもオープンに展開したいと考えています。
VMWには年間100万件以上の車両の修理・点検整備に関する膨大なデータが蓄積されており、拠点・車両などの基本情報のほか、車両の修理・点検整備の実施状況、修理部品の情報、メンテナンスコストなどの様々な情報を管理しています。
一方で、ハコベルには数万台の車両が登録されています。当社の全国の車両保守ネットワークを最大限活用し、各種事務処理についてはVMWにハコベルに登録されている車両のデータを登録し、合理的に処理することで、更なるシナジーが発揮できると考えています。

ハコベル 北村: 物流に携わる方々、中でも運送会社様にとって、様々なコスト逓減は大きな課題です。昨今では円安等に伴う燃油価格の上昇や人件費の上昇など、物流回りのコストは上がる一方です。日本郵便メンテナンスと組むことによって、整備コストが逓減できれば、大きなアドバンテージとなります。

インタビュアー: 日本郵便メンテナンスとハコベルが、つながったきっかけは何だったでしょうか?

日本郵便メンテナンス 山本: 日本郵政キャピタルからの紹介が発端です。
日本郵政キャピタルのメンバーは、常にスタートアップ企業とディスカッションし、日本郵政グループとのシナジー創出を考えており、その中の一つにハコベルがあったわけです。わたしたちにとってはとてもいい出会いとなり、今回、新しいテクノロジー・仕組みで最適な物流プラットフォームを社会実装していくハコベルのようなスタートアップ企業と短期間で協業できたことは、私にとって大変刺激的な経験となりました。

ハコベル北村: 運送会社の課題や整備ニーズを日本郵政キャピタルと話していたところ、グループ内の日本郵便メンテナンスを紹介いただけることが分かり、具体的な話は当社から持ちかけました。日本郵政キャピタルに株主として入っていただいたことは、非常に有益なことでした。

物流プレーヤーを応援するハコベル サポーターズプログラムとは

物流プレーヤーを応援するハコベル サポーターズプログラムとは

インタビュアー: ハコベルでは、物流ソリューションの他、「ハコベル サポーターズプログラム」を通して、物流事業者を支援しているそうですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

ハコベル 北村: ハコベルに登録している運送会社様であれば軽貨物、一般貨物問わず、各種サービスを紹介しています。どの運送会社様にも悩みがありますが、特に燃油が高い、メンテナンスコストを下げたいといったものは共通しています。

インフレ下においては、運送会社様も値上げをしたい一方で、荷主様も荷主様の事情から値上げに応じるのは難しい。ハコベルとしても微力ながらお力になりたいということでサポーターズプログラムを展開しています。

インタビュアー: 日本郵便メンテナンスとかかわりの深い、もしくはこれから関係を深めたいハコベルサポーターズプログラムの領域はありますか?

日本郵便メンテナンス 山本: 当社が扱っている様々な車両関連商品・サービス、物流関連商品の提供をサポーターズプログラムに組み込むことが考えられます。また、車両保守領域での協業拡大、例えば整備士不足に対応するためにハコベルとの協業による整備士マッチングプラットフォームの構築や、社会問題である環境対策への支援などが考えられます。当社の強みでもある電動二輪・EVの保守で経験を積んだ当社提携の保守ネットワークなどを最大限活用することで、今後も運送会社の各種課題・要望に臨機応変に対応できると考えています。

持続的な発展に向けて

持続的な発展に向けて

インタビュアー: 持続的な発展が求められる時代になりました。日本郵便メンテナンスとハコベルの取り組みをどのように拡げていくのでしょうか?

日本郵便メンテナンス 山本: 喫緊の社会問題であり、両社にとっての大きな課題、ハコベルにとってはドライバー不足・当社にとっては整備士不足、持続的な発展のためにそこに対峙したいと考えています。「物流の2024年問題」のように大きく取り上げられることは少ないですが、整備士不足も年々深刻になっており、トラックドライバーの有効求人倍率は2~3倍、整備士に至っては5倍程度になっています。どちらの課題もハコベル・当社からドライバー・整備士への安定・継続した案件提供、両社のソリューションを生かした配送・保守業務の合理化、リソース配分の最適化などにより、ドライバー・整備士がおかれている環境・収益性の改善が可能であると考えています。全国で安定した物流・保守ネットワークを維持していくことは、当社と直接取引を行うお客さまのためだけでなく、日本郵政グループがビジョンとして掲げている「共創プラットフォームの実現」の一環でもあると捉えています。
また、わたしたちのスケールと大きな資産であるVMWとそこに蓄積されたデータは社会問題の解消にも大きな影響をもたらすことが可能であると考えています。自動車アフターマーケットにおけるサーキュラーエコノミーの実現、CO2削減ロジックの確立・可視化によるカーボンニュートラルの推進といったものも実現していきたいです。

ハコベル 北村: 2024年問題をはじめ物流業界の課題は山積しています。何から手を付ければ良いか分からなくなる瞬間もありますが、原点に戻って顧客の課題に向かい合い、物流・運送業界の持続的な発展に貢献したいと考えています。こうした課題は常に同一ではなく、外部環境の変化や時代の移り変わりによっても変化を続けていきます。そうした中で、ハコベルとしては顧客の本質的な課題にフォーカスして、正しい価値提供をしていきたいと考えています。当社の提供するマッチングプラットフォームやDXのソリューションは、顧客の課題を解決していけるものだと思っています。

あまりプロダクトアウト的な発想はよくないですが、昨今では生成AIの活用など、課題解決への活路があると思います。生成AIによって、時間がかかっていた情報収集を一瞬で出来るようになった、或いは一瞬で具体的な解決策を理解することが可能になったという点等が生成AIのもたらした価値だと思います。生成AIを使いながら、より高速・高頻度で様々な仮説検証を行うなど事業の速度を上げていくことでより質の高い付加価値をお客様に提供できるようになると思います。

あとがき

あとがき

日本郵便メンテナンスの持つ膨大な車両データ・メンテナンスデータ、特にEVに関連したデータの量は日本でも屈指であろう。データを活用すれば、車両故障の予防的処置や自動車保険の金額算出など、周辺領域への拡がりはすぐに見えて来そうである。そして、ハコベルが愚直に顧客にフォーカスして課題を解決しようとする姿勢は、アマゾンが創業時に掲げている顧客第一主義(customer centric) の血筋を受け継いでいるようにも思える。今後の両者の動き・共創に興味は尽きないインタビューとなった。

参考
厚生労働省 ~ 建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html

2024年問題、EV化、DX化、激変の物流業界にチャレンジするスタートアップ「ハコベル」と「日本郵便メンテナンス」の取り組み

文/株式会社キャリアインデックス執行役員 広報・IR担当 曽根 康司

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